เข้าสู่ระบบ「うちはこの辺じゃ珍しい風呂付きさ」
なんと、この街の宿で風呂など全く期待していなかったのだが、これは何ともありがたい。
「手伝うよ」
「遠慮するよ、そんな大荷物、ここまで大変だったろう?
部屋で風呂と飯が用意できるまでゆっくりしてな」「お部屋はこっちだよ」
「そこはこちらになります、だよ!まったくもう」
呆れた声色で苦笑いした女店主。
「悪いね、旅のお人よ。まだ子供だから多めにみておくれ」
「気にしてないよ」
「もう!二人とも子供扱いして!ふんだ」
怒りながらも案内のために店主の娘が二階に向かって階段を上がると、
木でできた階段が少し軋む音がする。築年数を感じさせるような雰囲気で、彼の持っている荷物を背負ったままでは、
間違いなく床が抜けるだろう。だが、床は抜けず足取り軽く店主の娘についてゆく。
床が軋む音もさほど気にならない大きさだ。その様子を見ていた女店主が思わず溢す。
「鍛えているんだねぇ」
実際のところ鍛えていることは間違いないのだが、本当のところは単純に鍛えているだけではない。
部屋に到着し、なるべく床に重さが分散されるように荷ほどきを済ませる。
(先に風呂か、はたまた飯か)
と考えながら、出されたコップに入った水に魔力糸を接続させ、
空中で形を変化させる遊びで時間を潰す。変化のパターンが五十を超えた辺りで一階から風呂の準備ができたと声がかかる。
空中に漂っていた水を口に飛び込ませて飲み込んでから下の階へと向かう。
脱衣所のようなところではご丁寧に洗濯物を入れる籠まで置いてあった。
さっと籠に服を丸めて突っ込み、久しぶりに落ち着いた状態で風呂に入れる。
野宿中も川の水を固定させ形状を維持するなどの工程がとにかく多い。
維持にも少なからず神経を使うことから、全く魔力操作を必要としない風呂はとにかく貴重なのだ。
「はぁ~」
と思わず声が出る。
すると籠を回収しに来た店主の娘が「おじさんみたいな声出してる」
と笑いながら声の主が遠ざかるのをしり目に
(失礼な)
と心の中で抗議するのであった。
風呂を済ませ、用意された部屋着に着替える。簡素な作りだが、意外にも着心地がよかった。
「さっぱりしたかい?」
「おかげさまで、いい湯だったよ」
「それはよかった。さあ、飯の用意もできたよ!腹いっぱいになるまで食べな!」
満足したような顔つきで女店主が笑う。
「頂きます」
うっかり魔力糸で食器を操作しようとするが、自重する。
文化の違いはあれ、食器を空中にフワフワしながら食べる奴はこの世にいないだろう。
出されたメニューはスタミナがつく肉系とちょっとしたサラダ、
ブドウのような甘みのある飲み物と、 いったいどう仕入れをしているのだろうかと疑問になるが、 サラダ料理も新鮮ではないが古くもない、普通においしかった。「ありがとう、ご馳走様」
「あいよ!お粗末様」
店主の娘が空になった食器を片付けていく。
(将来はこの子が二代目店主にでもなっているのだろうか)
なんてことを考えてながらも自室に戻る。
せっかくのいい宿屋だ。
どうやら他にも何人か宿泊している客がいるようだが、今日は早めに休むとしよう。久しぶりのベッドでの睡眠は、思いのほか早く彼を空想の世界へと誘った。
彼の朝は今日も早い。日の出と共に自然と目が醒める。
普段なら眠い目をこすって朝食を準備しに行くが、今日から数日は少なくとも必要ない。
大会もあと二日とあっては、軽く剣でも振っておきたくなるものだ。
服を着替えて庭へと向かう。昨日店主に朝、庭を使わせて欲しいと頼んだ時に
「おや、あんたもかい?精が出るね。うちの庭は好きに使っていいから」
と言われていたので、もしかしたら先客がいるのかもしれない。
彼の予想は当たっていた。
動きやすい白の訓練服のような装束に身を包み、剣を振る度に滴る汗が朝日に反射している。
なびく鮮やかな金髪は後ろで一つに纏められ、柔らかく風に揺られながらも、その表情は真剣そのもの。
彼女の邪魔をしては悪いと考え、意識の外に位置取り自前の木剣を片手に素振りを開始する。
最初は右手で二十回、上段から振り下ろした後に左手に持ち替えて更に二十回。
これもまた上段に構えて振り下ろす。合計四十回ほど振り終えてフーっと息をつくと、
少し離れて同じく素振りをしていた彼女がこちらを見ていた。特に話しかけてくる様子もないので、一瞬目が合った後にお互い目を離し、朝の鍛錬へと戻る。
準備運動はこれくらいでいいだろう。
始めは片手で振っていたのを両手に持ち直し、
右上段から左下段へ木剣が加速しきるタイミングで力を加える。木剣とはいえ多少の重みはある。しかしそれを感じさせない速度で振り下ろされた木剣は、
片手で振っていた時とは明らかに違う、剣が発する音色とは異質な音が響き渡る。振り下ろされた剣は地面付近で急停止し、
代わりに舞い上げられた砂埃は彼の出した剣圧を物語っていた。両手での素振りが丁度終わった頃、すでに朝日はオレンジから白へと変わり、
表には人の気配が溢れていた。同じく朝練をしていた金髪の彼女はどうやら先に上がっていたようだ。
「お兄さーん?朝ごはんできていますよ!」
大会まであと二日、今日は出場者としてエントリーするために闘技場まで足を運んでいた。
だが、向かっている途中に冒険者のようなイカニモな奴らから声を掛けられる。
「おい兄ちゃん。そんなナリしてまさか大会に出るってんじゃねぇだろーな?」
「ソンナマサカー」
と適当に返答し、その場を後にする。本当ならここで
「だったらどうする?」
とでも返してやりたいところだが、今はエントリーに急いでいる。
エントリーが済んだらもう昼だろう。
今日はそれだけではなく、昼過ぎからも予定があるのだ。正直こんな暇人に付き合っているほど、彼は気が長い方ではなかった。
しかし、どうやらそれだけでは満足されなかったのか、
腰抜けのカモだと思われたのか、力任せに彼の肩をリーダー格の男がつかんだ。「待てよ兄ちゃん。ちょっと俺たちと遊んでいけよ。
こちとら明後日の大会まで我慢できないんだよ、終いにゃボロ雑巾になってくれや」どうやら大会出場者だとばれてしまっているようだ。
肩を掴まれた時にゴロツキから流れる自然魔力すら感じ取れない。
ゴリゴリの近接系といったところだろう。それを金髪の女性が怪訝そうな表情で彼とゴロツキとのやり取りを見ていた。
相手は複数。純粋な力だけなら自分と同程度の力を持っているかもしれないと感じた彼女は、 少し心配そうに見守っている。しかし、朝練で見たあの剣と振り下ろされた時の「音」
只者ではないようだが、彼もまた大会出場者。勝ち上がれば自身の障害となるだろう。
偵察の意味も込めて彼が連れていかれた路地裏へと足を運ぶ。
彼はあの角を曲がったところにいるだろう。
物陰から見つからないように彼の行方を追いかけるが、喧噪はまだ聞こえてこない。やっと追いついて彼のやり取りを見ようと、
曲がり角から顔だけ出して確認した彼女は信じられない光景を目にしたなんとゴロツキ達が音もなくすでにやられていたのだ。
「嘘!?」
と思わず声が出る。
彼女が彼から目を離した時間はおよそ五秒と言っていい。その間に全員を逃がさず、かつ迅速に倒してしまったのだ。
彼の姿はもうそこにはない。(私の存在に気づいて、手の内を見せないように身を隠された?)
彼女の表情が更に曇る。
やはり只者ではなかったと自分の考えを肯定すると同時に、
楽に優勝できると考えていた大会が、一杉縄ではいかないことが証明された。「受付完了いたしました。Bブロックの八番です」
大会のエントリーを終えた後に、先ほど後をつけてきた彼女が大会エントリーにやってきた。
また一瞬お互いに目が合うが、朝練で目が合った時とは全く違う、
探るような視線を彼女から感じ取っていた。またお互いに目線を反らし、彼女は行ってしまったが、
宿が同じならまた会うこともある。警戒されている相手に頻繁に会うのは面倒だ。「Aブロックの二番になります」
「ありがと」
彼女もまた大会エントリーを済ませ、彼がいた後ろを振り返るが彼の姿はもうなかった。
大会前日は街が騒がしかった。
どうやら大型の魔物が街の近辺に出没したらしく、
大きな岩山が一つ消し飛んでいたらしい。付近に魔力反応もあったことから、衛兵たちが広場に集結させられている。
しかし、頭数が少ない。
仮に討伐することを考えているのならばあと三倍は人員が欲しいところだろうが、 魔物のランクが高ければもっと人数が必要になることは間違いなかった。衛兵の年齢も老いたものが多く、どうにも覇気を感じられない。
街ゆく人々は呑気なもので「明日の闘技大会はどうなるのか」
「中止だけは勘弁してくれ」
など大会のことで頭がいっぱいだ。
寂れた街での少ない娯楽として、闘技大会の価値の高さが伺える。「おう!今日も早いね!」
洗濯物を干すために二階へやってきた女店主と鉢合わせになる。
「庭、また使わせてもらうよ」
「好きに使っておくれ。それよりもアンタ、ここ近辺に魔物が出たって知っているかい?」
「いや、初耳だ。規模はわかるのか?」
闘技大会を明日に控え、前日に魔物騒ぎはこちらも困る。可能なら障害は早めに対処したい。
「これが分からないんだってよ。町の衛兵が調査に行くらしいけど、心配だね」
「そうか、ありがとう。こっちでも様子を見てみるよ」
「無理するんじゃないよ」
朝の鍛錬には昨日に引き続き金髪の彼女がいたが、やはり会話は無かった。
軽く済ませて、準備していた衛兵に話を聞く。やはりというべきか、衛兵にも話を聞いたが一度調査をしてみないことにはわからないようだった。
「本当に皆さん、王国のために尽力して下さり、ありがとうございました」最後の戦いから数日後、傷が癒えた頃に女王陛下から感謝の言葉が述べられた。王国の水問題はカノンの尽力により普及工事が進んでおり、こちらも飢える寸前で解決へ向かっているようだ。「ベンジー騎士団長亡き後、現在は空席のままですが、ハクロウ副団長を騎士団長に昇格し、そしてレルゲン、貴方を副団長に任命致します。よろしいですね?」二人が同時に答える。「「謹んで拝命致します」」ナイトの討伐と、王国を狙った数々の暗躍が終了した事を祝して祝勝会が開かれた。「しっかし、俺がボウズ直々の上官とはねぇ…功績を考えたら普通逆じゃねぇ?」「私専属の騎士ってだけで、今まで普通の騎士と同じ階級なんだから妥当でしょ」「いやぁ、俺片腕無くなっているしよ…」「それなんだがハクロウ、無くなった左腕について話があるから後で」「ん?ここじゃダメなのか?」「まあな」「まぁいいか、んじゃ嬢ちゃん達をあまり待たせるなよ」「ああ」短い挨拶だったが、一時は死にかけていたハクロウも晴れやかな表情をしている。貴族に挨拶をして回っているマリーを見つけ、半ば強引に話しかける。「マリー、ちょっといいか?」周りの貴族達に別れを告げて、マリーがレルゲンの前に来る。「どうしたの?」「俺と一曲、踊ってくれるか?」その直球な物言いにマリーは少し驚いた表情をしたが、すぐにレルゲンを見つめ返し、返答する。「喜んで」簡単な踊りではあったが、マリーは笑顔は眩しく、また幸せそうな顔をしている。そこはレルゲンとマリーだけの空間、もちろん他の貴族達も一緒に踊ってはいたが、周りも気を遣って少し距離を空けてくれている。(マリーと踊れて良かった)(私も、公の場で貴方と踊れたのは本当に嬉しいわ。セレス姉様の事もあるし…)(今は周りの目は気にせずに一緒に楽しもう)(そうね)二人だけにしか聞こえない、踊りの中での魔力糸での思念会話は、心の距離の近さを象徴していた。マリーとの踊りが終わってから、セレスティアの姿が見えない。気になったレルゲンは少し辺りを見回して彼女を探すが、どこにも姿は見当たらない。女王にも直接聞いてもみたが、分からないと返答された。思い当たる所は後一つ。セレスティアと初めて会った中庭。初めて念動魔術の物質分離が成功し、
得意気に笑うレルゲンを見て更に思考が乱れていく。ナイトは一度落ち着くために深呼吸をするが、この間にも魔力障壁が加速度的に速く、そして鋭くなっていくマリーが魔力障壁をどんどん破壊していく。加速しきったマリーは今や分身して見える程だ。こうなってしまってはレルゲンといえど加勢しようとすると逆に邪魔になる。「やあぁぁぁぁ!!!!」剣が加速する度にマリーの気合いも上がっていく。ナイトが保険のために用意した魔力障壁がもうじき全て破壊されるタイミングで全身から真紅の魔力が噴き上がり「いい気になるなよ!」口調が荒っぽくなり、衝撃派ではなく純粋な魔力衝突によりマリーが後方に吹き飛ばされる。壁に勢いよく激突し、少しの亀裂が入るがマリーの意識はまだ失われていなかった。ようやく回りを俊敏に動いていたマリーを止めることに成功し、ナイトに余裕が戻る。「なまじ強いと大変ですね、おや?それにしても今のをもろに浴びてその程度ですか。レルゲン君、ではありませんね」一拍おき、ピシッと額に血管が浮き出る。「貴女…今、念動魔術を使いましたね?」痛みを堪えながらも笑って見せるマリー。「死になさい」最後の一撃を入れようとするナイトにセレスティアがどの上位魔術にも属さない、しかし威力は上位魔術にも引けを取らない詠唱破棄の独自の魔術を発動させる。「させません、マルチ・フロストジャベリン」無数の氷でできた槍を空中からナイトに向けて放つ。「そんなところにいたのですか。貴女までも…と思いましたが、これはどうやらレルゲン君ですね」静かにレルゲンがセレスティアを地上に下ろし、マリーの治療のためにセレスティアが駆け出す。「回復なんてさせませんよ」念動魔術で強引に止めるが、それでも何とか前に進もうとするセレスティア。しかし身体を完全に固定されて進めない。「ここからでは射程が遠くて回復魔術を使っても意味がありませんよ。大人しくそこで横たわる第三王女を見ていなさい」ナイトがセレスティアからレルゲンに向き直る。「ではレルゲン君、ついに一騎打ちです。私の懐に入れれば君の勝ち、こられなければ私の勝ちです」「それはどうかな、まだ気が早いんじゃないか?」「何を言っているのです?もう彼女達の加勢は不可能でしょう」セレスティアからマリーへ伸びる、一本の魔力糸。否、逆だ。“マリーが伸ばした”魔
「素晴らしい!皆さん本当に素晴らしい!誰も欠けることなく私の最高傑作を打ち倒すとは。特にユゥに入れた最後の一撃!私は感動しましたよご老人!流石は年の功ですね。ですので」パチンと指を鳴らし、レルゲンが帯同させていた鉄剣が螺旋状となり一瞬で高速回転する。「は?」何も命令を出していないはずのレルゲンの鉄剣が螺旋を描き、ハクロウの左肩に命中。勢い収まることなくその後ろにある壁をも貫き、見えなくなる。「くそ…しくったか…」ハクロウの左腕が肩口から螺旋剣に抉り飛ばされ、酷く出血する。「なんで…くそ、ハクロウ!」「こっちを見てんじゃねぇレルゲン!俺なら大丈夫だからよ…そっちはあいつに集中しろい」即座に帯同している残り四本の鉄剣を外へ飛ばす。残る武装は黒龍の剣と白銀の細剣のみ。肩で大きく息をするハクロウ。出血量はセレスティアが負わされた時以上、間違いなく致命傷だ。慣れた魔力糸捌きでハクロウの応急処置をし、止血する。注意はナイトに向けたまま、感覚のみで手術を行う。出血量が少なくなったところですかさずハクロウが回復薬を飲み、完全に止血が完了する。肩で息をしていたハクロウの呼吸が落ち着き、安堵する。その様子を見たナイトが一言。「手術の速度と精度も上がっていますね。実に素晴らしい成長だ」それを聞いたレルゲンは魔力を全て解放し、もはや黒と形容してもいい程の赤い色の魔力が全身から迸る。我を忘れ、今にもナイトへ突っ込んでいきそうなレルゲンを止めたのは、マリーとセレスティアだった。ただそっと二人が両手を握り、優しく魔力をレルゲンに流す。全身から迸る赤い魔力がフッと消え、我に返る。「ありがとう、二人共」マリーとセレスが頷き、構えを取る。セレスが高速詠唱でバフを二人にかけている最中、時間を潰すかのようにナイトが語り始める。「シュットくんの魔力はどんどん濃さが増していますね。色を見れば明らかですが、魔力総量だけ見れば既に私を超えているでしょう」「レルゲンだけしか見えてないって言いたいのかしら?」マリーが挑発するようにナイトを煽る。「いえいえ、そんなことはありませんよ?マリー・トレスティア。貴女方には正直期待していませんでしたが、シュット君を献身的に支える姿には涙が出るほどです」煽ったつもりが煽られたマリーは顔をしかめるが、ナイトの余裕を崩すには
(やはり魔力糸なしの念動魔術で操作していたか)「どういうこと?」マリーがレルゲンに説明を求める。「簡単にいうと、こいつらを動かしているのはナイトの念動魔術だ。だから最初から見やすい位置に陣取って“操作していた”んだ。ナイトが操っているから念動魔術も使える」レルゲン以外の三人が驚きの声を上げる。今までのこの攻防を全て一人で演出していた。それこそまさに旅の行商人が連れ歩く人形使いのようではないか。ここまで並列に思考を分けて、狙いを絞り、作戦を共有させる。念動魔術の極地とも言える技の結集にレルゲンは素直に驚きと共に、上の世界を見た。「仕組みを理解したところで、今のレルゲン君には操作権は奪えませんよ」「そうかもな」最初はマリーとアイとの相性が悪いことから前衛を変える選択をしたが、アイの影移動とユゥの回復、どちらを先に叩くか──間違いなくアイの影移動の方が厄介だ。となればレルゲンが自らアイと一対一の戦いをしても良いが、それだと次のナイトと戦う事を考えると魔力が枯渇しかねない。寧ろ次を考えるなら、レルゲンが回復魔術を使うユゥを発動させないように釘付けにし、マリーとハクロウ、セレスティアにアイを討ち取ってもらった方がいい。アイとユゥ、どちらかが欠ければ後は消化試合のはずだ。「俺がヒーラーを抑える。みんなは影移動の方を叩いてくれ」「任せて」「あいよ」短いやり取りだが、即座にマリーとハクロウがアイに切りかかっていく。マリーが連続剣の加護を発動させて、ハクロウがそれのサポート。三人で戦っていた時はこんな戦法を取ることが多いのかなと考えたが、目の前のユゥに集中して回復の隙を与えないように立ち回る。マリーが連続剣の加護が発動してから速度が上昇し切るまではハクロウと一緒に前衛をこなすが、加護の速度が乗り切った後はマリーのみで前衛を任されるのが一つの勝ちパターンだ。次第に速度が上がっていくが、ここでアイが速度鈍化のデバフスキル「ダウン・ザ・ピッチ」をかける。またガクンと一瞬速度が落ちるが、セレスティアがそれを即座にカバーする。「ライト・スピード」下がった分即座に速度バフがかかり、マリーの口角も上がる。更に上がある、もっと先へ行ける。そう感じてからの攻撃速度はマリーを能力以上の速さへと進化させる。堪らずアイが影移動で離脱しようとするが、これをセ
建物の入り口を潜ると自動で閉まっていく。一度入れば最後、どちらかが全滅するまでこの扉は決して開かないだろう。もう緊張も迷いもない。皆がただ勝利を信じてここへ立つ。中へ入ると軍服を着た少女が二人。奥にはナイトも見える。軍服の少女達とナイトを一度に相手取るように見えたがナイトが下がり、玉座とも取れる椅子に腰掛ける。「アンタは高みの見物か」レルゲンがナイトを煽ると、ナイトがにやっと口角を上げて答える。「その娘達は私の“最高傑作”です。私をここまで待たせたのですから、じっくり味わいたいではありませんか。それと油断していると幾らシュット君でも、死にますよ?」「俺の「挨拶」に耐えたんだ。そんなつもりはないさ」帯同させる剣の中には、ドライドが丹精込めて鍛え上げた剣もある。刀身は白銀で細く、細剣に近い形状を取る。鍔部分はアシュラ・ハガマの増幅鉱石があしらわれており、他にも王国から直接貸与された名剣とも呼べる切れ味を誇る鉄剣が五本。黒龍の剣も入れれば計七本の剣を扱うこととなる。マリーとセレスティアの装備は変わらず、ハクロウのみ魔物討伐の時から日本刀のような形状の刀を二本、始めから抜刀している。レルゲン達に対する軍服の二人組は、片方が短剣を両手に一本ずつ持ち、もう片方は片手直剣を持っている。レルゲンの挨拶の時は両者共何も持っていなかったが、最初から武器を手にしている事から、挨拶時は始めから「どちらも本気ではなかった」のだ。レルゲンの額から汗が流れ、地面へと落ちる。「いくぞ!!」両陣営共駆け出す。前衛はマリーとハクロウ、レルゲンは遊撃として一歩下がり、セレスティアは小声で攻撃魔術の詠唱を始める。最初は様子見とばかりにお互い魔術の追加攻撃はせずに前衛同士の鍔迫り合いが繰り広げられる。レルゲンも鉄剣を一本ずつ相手の横腹に射出するが、あっさりと短剣使いは弾き、片手直剣の方は素手で弾く。射出速度と剣の切れ味から考えても無傷で防げるとは考えづらい一撃だが、ここでレルゲンが挨拶をした時に放った赤い光線を両者とも素手で受け止めていたことと重なる。(やはり身体の構造的に何かあるな)ちらっとナイトの方を見るが依然として動かず、表情も変えず、戦いを楽しむように観戦している。レルゲン剣を弾いた直後に両者とも鍔迫り合いを止め、剣戟が室内に響く。マリーとハクロ
五段階目の討伐で自信をつけたマリー達は少しの休憩の後、五段階目一体、六段階目も一体討伐して帰還して来たのだった。六段階目は魔力量と大きさ、一撃の破壊力は大きいがセレスティアは標的にならない程前衛二人の働き凄まじくアシュラ・ハガマに似た形状の魔物を討ち取ったのだった。王国に帰還してからというもの、レルゲンにこの事を報告に行った三人は気力、魔力が尽きかける限界近くまで消耗はしていたがそれでもやり遂げたのを見て、レルゲンはただ一言「お疲れ様」と労った。それから発注した武器が完成するまでは、レルゲンは三人の連携を崩さないように立ち回り援護に徹することが多く、念動魔術による牽制くらいしか必要としない力量まで実力が底上げされていた。この成長ぶりにはマリー達自身も驚いており、レルゲンも背中を預けられると安心していた。武器が出来たとドライドから連絡が入り、早速届いた剣を試し斬りするべく、鍛冶屋の裏に周る。「この前の黒龍の剣とは違って、どっちかっていうとマリー嬢ちゃんの魔剣に近いな。要望通り作りはしたが、どんな目的があってそんな仕様にしたんだ?」掻い摘んでドライドに話す。「それをしたところでなぜそうなるんだ?」と返って来たので、説明が難しいと言って逃げる。試し斬りだけして切れ味を確かめ、要望通りの品質を確認してドライドに感謝を伝えた後に持ち帰るのだった。実は新しい武器はレルゲンが幼少期に体験したある出来事が元になっている。まだ魔法すら使ったことのない年齢のレルゲンが、火炎魔法を発現させたと大騒ぎになった事があった。結果的には魔法の痕跡は無く、原因が分からないまま終わったが、それを見た両親がナイトを家庭教師としてつけて魔術を教えることとなるのだが、レルゲンは今でも鮮明に覚えている。“この世は魔で満ちている”魔術適正が無くても、魔法くらいなら誰でも出来るのだという確信がレルゲンを形作った。その手段を魔術で応用することによって、真の魔術として昇華させる。まさに十八番ともいえるレルゲン独自の技の基礎だ。準備は整った。敵の本陣とも言える座標に徒歩で向かう。相変わらず魔力揮発剤が常時巻かれており、魔物が寄り付かない道がこの深い森の中に出来ている。森を抜け、木々が不自然に生えていない場所に出ると陽の光が入り込み、暖かな日差しが差し込んでくる。芝の上
後一歩のところで上空に感じた覚えのある魔法陣が闘技場全体を覆う。お互いに戦闘を瞬時に中断し、何が起きているのか情報を集めようと周囲を見渡す。(これはユニコーンの時と種類は違うが、同じ奴が起動しているな。となると魔法が飛び交っていた闘技場の魔力を使ってまた魔物を召喚するつもりか?だがそれならもう対策はある)彼が右手を空に掲げ、自身の知覚できる感覚を広げる。仮想的に可視化させた周囲の環境を取り巻く魔力を一点に集めるべく、魔力糸無しで念動魔法を発動させる。だが、彼の思惑通りにはならなかった。確かに魔術の発動は出来た、一瞬だが周囲の魔力を集めることも。しかし、魔術の「継続」が出
大会もいよいよ最終戦木剣のみの打ち合いになる相手はどんなお貴族様かと思っていたら「なるほど、相手は君か」「ええ、まず試合が始まる前に謝罪をさせて頂戴。私が有利になるルールに何度も変えさせて」「いいさ、結果は変わらないからな」「ふふっ、貴方そんな冗談も言えるのね」その冗談とは、これほどまでの縛りルールでも勝てると思っているのか。またはそんな減らず口を言えるタイプだったのかと思っているのかは分からないが、お互いに決勝まで駒を進めてきたもの同士。気分が高揚していた。「特別試合、始めてください!」最初に動いたのは彼女の方だった。木剣の種類は彼女の背丈には不釣り合いな長さで、
第一試合から順調に試合は進んでいき、彼は順調に駒を進め、決勝まで来たのだが相手は先日のユニコーン騒ぎでひと悶着あった白髪の剣士だ。「これよりBグループの決勝戦を開始します!えー、一番と八番の決勝戦ですが、なんとお互いに真剣を使っての試合を望んでいるようです!」決勝戦ともあればある程度のわがままは通るはず。どうやらお互いに考えていることは同じようだった。「ただいま入った情報ですが、事前にお互いが大会運営に直談判し、運営はこれを許可したそうです!さぁ盛り上がってまいりました!」観客から歓声が上がる。「では改めまして、Bグループ決勝戦!始めてください!」お互いに目線を合わせ
大会当日大会のルールは魔法、魔術あり、真剣あり。寸止めは必要なく戦闘続行不可能と審判が判断すれば試合終了。実質初撃で致命的な一撃を負わせることができれば殺しもありの、ほぼルール無用の地下闘技場にありがちな過激な大会規定だったはずだ。だが、急遽真剣は木剣となり、魔法、魔術も呪い系や再起不能になるレベルの攻撃魔法、魔術は禁止の実質学生の大会でもやるのかというレベルのルールでの開催となった。ここで魔法と魔術の違いについて簡単に説明しよう。魔法とは、単純な命令や魔力変換の末に行使が可能なもので、魔術とは、例えば魔法を複数組み込み複雑な術式を構築することを指すが、この魔法と魔術と







